2021.11.23
< 撮影機材 Hasselblad X1D MAMIYA-SEKOR 105-210mm 2019年 >
清里を少し下ったところにある大泉村に 俳優の柳生博さんの山荘があって、そこでレストラン八ヶ岳倶楽部を開いていらっしゃる。
小淵沢にある父の山荘のお庭の設えに、亡くなられたご長男の柳生真吾さんが手を貸してくださったご縁もあって、八ヶ岳倶楽部には今でも時々お邪魔する。
・・・・というか、それよりずっとずっと前に、私が子供だった頃、柳生さんがお子さん達を連れて大泉に移住されてすぐに、奥様がレストランをオープンされた。
その時から「八ヶ岳倶楽部」という名前だったかは覚えていないのだが・・・
私達家族は年末年始は小淵沢の山荘で過ごす習慣で、そんなある寒い冬の日、清里方面にお夕飯に出かけたのだが、目当てのレストランがその日はクローズしていた。
あの頃は清里の辺りもまばらにしかお店がなく、林の中にレストランの看板を見つけた時には、つくづくほっとしながら、飛びこみでお店に入った。
そうしたら、ロングドレスを着たモダンな感じのマダムが出ていらして、それが柳生さんの奥様だと母が気づいてびっくりした。私はよく知らなかったが、奥様も結婚される前は二階堂有希子という名前の女優さんでいらして、母には覚えがあったらしい。
お話を伺ったら、ご家族で八ヶ岳に移住されたとのことで、
山の中の事だから、多少車で走る距離でも、なんとなくご近所さんみたいな気がして親近感を覚えてしまった。
・・・で、肝心のレストランのメニューなのだが、「オープンしたてなので、ビーフシチューしかありません。」とおっしゃられる。
寒い冬の日だったから、まぁ、それでもいいかと言うことになったけれど、何とも気ままなレストランだった。
とはいえ・・・当時もう一軒の懇意にしていたレストランも、その日の仕入れでマスターの思いついた料理しか作らないというメニューの存在しないスタイルだったから、あの頃八ヶ岳の山の中でレストランをオープンするような方は、気儘で常識に縛られないのんきな人が多かったのかもしれない。
それでも、マスターの気まぐれで何が出てくるのかわからないのではなくて、いつでもそこへ行けばビーフシチューが食べられるというのは、それはそれでいいものだった。
食後のデザートになったら、案の定、にっこり微笑みながら「デザートはリスのケーキしかございません。」とおっしゃっる。
子供心に、「リスのケーキって、何?何?」って、ものすごく興味をそそられて、この提案は大歓迎だった。
因みに、この時小学生だった弟は「リスのお肉が入っているに違いない。僕は絶対に食べない。」と泣きそうな顔で言い張った。(笑)
「ドレスのおばさんが、すごく意味深な顔をした。」というのが理由だった。
弟はお菓子のビジュアルに感情移入する子で、東京銘菓の「ひよこ」や若鮎をかたどった和菓子を絶対食べずにいる子だったから、リスの形をしたケーキが出てきたら、アウトだったのだが・・・・
運ばれてきた「リスのケーキ」は、チョコレートケーキをベースに、山ほどぎっしり色々な種類のナッツが詰まった贅沢なケーキだったのだが、清泉寮のミルクから作られたホイップクリームが添えられているのも美味しくて、それはそれは絶品だった。
もちろん弟もニコニコしながら完食した。
その時はコーヒーの提供しかなかったのだが、しばらくしてから訪れたら、フルーツティーがメニューに加わった。
それ以来だけど、ここのフルーツティーは世界一美味しいと私は思っている。
そんな風に言っては申し訳ないけれど、千疋屋だって、高野だって、八ヶ岳倶楽部のフルーツティーにはかなわない。多分ね・・・
ポットの中にふんだんに詰め込まれた新鮮なフルーツと美味しい紅茶の香りとほのかな甘みに、いつだって本当に癒されてしまう。
だから、今でも、年に何回かどうしても八ヶ岳倶楽部のフルーツティーが飲みたくなって、中央道に車を走らせたりする。
お店のメニューはそれなりに増えたけれど、ビーフシチューは、今でもレストランの看板メニューとして健在だ。
ただ、とても残念なことに、大好きだった、リスのケーキが、いつの間にかメニューから消えてしまった。
しばらく前から奥様は体調を崩しておられて、リスのケーキは奥様だけの㊙レシピだったのかもしれない。
前置きが長くなっちゃったけど、今日の写真は、2019年に、思い立って倶楽部までビーフシチューとフルーツティーのランチをしに出かけた時の撮影。
八ヶ岳周辺の紅葉は落葉松ばかりで、地味だけど、秋の空にすっきりと清々しい姿だった。