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印象派の沼




<   撮影機材  Hasselblad X2D100C  MAMIYA-SECOR 105-210mm  >




亡くなった父は、大学を退官してその後学会からも引退して、晩年は好きだった絵を描いて日々過ごしていた。


自分で足を運んで写生をしてくることの方が多かったけれど、

たまに、私が撮ってきた写真を見て、「絵にしたいからプリントして来てよ。」と注文してきた。

「あ、写真から描いちゃうなんて、ずる~い。」って言いながら、私は自分が撮った写真を父が絵にしてくれるのが嬉しくて、いそいそとプリントしては父のもとに献上したものだった。


その中で私も気に入っている父の絵が、「パリ、リヨン駅にて」というこの一枚。


珍しく署名を入れているから、もしかしたら父も気にいっていて、展覧会に出品したものかもしれない。





元写真は、母と息子と私の3人でパリへ旅行に行った時にリヨン駅で撮ったものだ。

リヨン駅と言っても、南フランスのリヨンではなくて、パリ市内の6大ターミナル駅の一つのリヨン駅だ。


パリにはいわゆる中央駅というものがなくて、


リヨン駅、オステルリッツ駅、モンパルナス駅、サンラザール駅、パリ北駅、パリ東駅の6つの駅が拠点駅となって、パリ郊外やフランス各都市へ向けて四方八方に路線を伸ばしている。

リヨン駅はその名の通り、パリ南東のリヨンや、マルセイユ、ニース等に向かう列車の発着駅だけれど、この時の旅はイルドフランスを回りたくて、路線途中のフォンテーヌブローやバルビゾンへ行くためにやってきた。


ところで、リヨン駅には駅構内に、”ル・トラン・ブルー” という古いレストランがある。

旅行の前にたまたまTVで見た「Mr.ビーン カンヌで大迷惑」という映画に、このル・トラン・ブルーが舞台になっているシーンがあって、それで、どうしてもこのレストランに立ち寄ってみたかった。

映画の中では、イギリス人がフランスの食文化をシュールに批判していて、あまり好意的ではなかったし、フランス人が気の毒なくらいちょっと失礼な描き方をしていたけれど、でもレストランはすごく魅力的な印象だった。


実は、駅構内のレストランといっても、日本の駅の食堂のイメージとは程遠くて、中はこんな感じ・・・

駅舎と共に長い歴史を歩んできた古いレストランだ。

ただでさえ旅への期待に胸が膨らむ出発点の駅で、こんなレストランで寛いでから出かけるパリの人々のエスプリに触れたくて、この日は列車に乗り込む前に、私達もここで朝ごはんを食べた。

ちょっとしたイベント朝ごはんだった。



撮影は、駅構内から少し高い位置にあるこのレストランの入り口辺りからだったと記憶している。



父が描いた絵をあらためて見ると、写真から絵になって少しデフォルメされた構内は、元写真とは違う味わいがあったし、当時の駅の賑わいが伝わってくるようで懐かしさを覚えた。

母と息子と3人で朝ごはん食べた思い出とともに、父の取った絵筆は、私にとっては忘れられない大切な宝物なのだ。




話が大きく逸れてしまったので、今日の写真に話題を戻さないと・・・



今回の撮影旅行で写真を撮りながら、ふと、この場所で写生したら父はどんな絵を描いただろうかと思った。

父は写生しながら、私は写真を撮りながら、一緒に歩けたら楽しかっただろうなと思った。

一緒に来れなくても、私の撮った写真をまた描いて欲しかった。


それで、今日の写真は、父の代役でちょっと絵画風のつもり。


といっても、私のは沼に映った森のリフレクションを天地ひっくり返しただけだけど・・・

ちょっと印象派の絵に見えないことはないな、なんて思った。


いや、父がこれを見たら、きっと憤慨して怒るだろうな・・・(笑)







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